年齢制限の話
受験相談を受けていると、「年齢制限はありますか」「今○○歳なんですけど合格できますか」といった質問をされることがあります。
医師(医学部受験)の話になりますが、数年前、ある国立大学を受験した50歳代の女性が、試験の成績は合格ラインを越えていたのに不合格になったことがありました。女性が大学に問い合わせたところ、大学が年齢を理由にしたことを臭わせたそうです。このケースは極端なケースかもしれませんが、一般の転職市場を考えても30歳をすぎると人材としての価値は大きく下がると言われていますから、年齢制限の存在は確かに不安に感じるところです。
では看護学校の場合はどうでしょうか? 結論を先に言うと、学校選びさえきちんとやれば、年齢のことはあまり気にせずにどんどんチャレンジしてみるとよい、ということです。ただし、面接試験のときに「若い人や年の離れた人たちとうまくやっていけますか?」と聞かれることが多いので、それに対する答えは準備しておいてください。
ポイントは、学校選びをきっちりやることにあります。実際に年齢制限を課している学校はありますし、募集要項には年齢制限を明記していなくても、合格実績を調べてみると、社会人の合格者が少ない学校もあります。反対に、社会人の方を積極的に合格させていたり、年齢制限はないと明言している学校もあります。こういった情報を早い時点でつかみ、受験スケジュールを検討することが、合格への近道となります。私たちもそのお手伝いをしたいと考えています。
次に学校の情報を調べるコツを書いておきます。
社会人入試の有無
社会人入試を実施している学校は、それだけで高年齢層の受験者に門戸を開いている確率が上がります(逆に社会人入試を実施していない学校は、一般入試においても高校生を中心にとりたいと考えている可能性が高い、と言えます)。
ただ、肝心の「社会人」の定義が学校ごとにバラバラなので、注意が必要です。社会人というと、会社の正社員のようなイメージを抱きがちですが、決してそんなことはなく、「家事従事者」つまり専業主婦でも受験可としている学校もあります。高卒や18歳以上としている学校もあります。普通、専業主婦や高卒浪人の人を社会人とは言わないですよね。
さて、社会人入試の受験資格でよくあるのが、次のようなものです。
学歴 :高卒(=大学入学資格のある者)、短大卒(見込み)、大学卒(見込み) など
社会経験:○年以上の職務経験(主婦やアルバイト可・不可、期間の合計や勤続など条件は様々)
年齢 :満23歳以上、満25歳以上、35歳未満 など
居住地 :学校と同じ自治体に居住、またはその自治体にある会社に勤務 など
これらのいずれか、またはいくつかを組み合わせて社会人入試の受験資格が作られているパターンが大半です。このうち、年齢について調べてみるとよいでしょう。
★首都圏の看護学校における社会人入試の年齢設定(2020年度)
※年齢以外の条件を受験資格に設定している場合があるので、必ず募集要項で詳細を確認してください。
◎年齢の下限を定めている学校
26歳以上 | 東京家政大学 |
25歳以上 | 千葉大学 国際医療福祉大学 東京都立看護専門学校 横浜市医師会聖灯看護専門学校 神奈川県立よこはま看護専門学校 厚木看護専門学校看護 川口市立看護専門学校 |
24歳以上 | 藤沢市立看護専門学校 |
23歳以上 | 東京医科大学 神奈川県立保健福祉大学 関東学院大学 松陰大学 東都医療大学 日本医療科学大学 和洋女子大学 上尾市医師会上尾看護専門学校 |
22歳以上 | 共立女子大学 武蔵野大学 聖マリアンナ医科大学看護専門学校 埼玉県立高等看護学院 済生会川口看護専門学校 |
21歳以上 | 東京有明医療大学 人間総合科学大学 東京情報大学 |
20歳以上 | 帝京科学大学 淑徳大学 横浜中央看護専門学校 湘南平塚看護専門学校 湘南看護専門学校 積善会看護専門学校 (独)労働者健康福祉機構千葉労災看護専門学校 勤医会東葛看護専門学校 |
19歳以上 | 小澤高等看護学院 |
他にも、「高校卒業後社会人経験3年以上」や「大卒(見込み)」といった、22歳前後を社会人入試の年齢制限の下限とする学校が一般的です。
併願校とされる学校になると、受験の年齢制限は緩和され、19歳や20歳を下限とする(つまり高校卒業して、浪人期間等がある人は社会人とみなす)学校が出てきます。
一般的に、首都圏では大学を卒業する22歳から25歳位に年齢制限(下限)を設定している学校が多いことが、上の表からわかります。大学を卒業して2~3年経ち、就職した会社に限界を感じて、転職などの人生の進路変更を考え始める時期、俗にいう「第二新卒」の時期にあたります。看護学校もこの年代の進路変更に注目しているわけですね。
◎年齢の上限を定めている学校
36歳以下 | 東京警察病院看護専門学校 |
35歳未満 | 東京新宿メディカルセンター附属看護専門学校 |
32歳以下 | 板橋中央看護専門学校 |
26歳以下 | 東京山手メディカルセンター附属看護専門学校 |
一方、首都圏では年齢制限(上限)を設定している学校はそれほど多くありません。上限を設定してある学校も全て30歳代です。このことからわかるのは、あなたが20歳代であれば看護学校に入学するのにまったくと言っていいほど支障はありません。30歳代、40歳代の方でも、学校さえ選べば、チャレンジできる学校はたくさんあるということです。国公立の、評価の高い学校にもチャレンジできますよ。
合格実績を調べる
学校のホームページには、受験倍率などの入試のデータを掲載しているところがあります。大学ならほぼすべての学校で前年の入試データを確認できます。専門学校の場合、大学のそれほど整備されていませんが、それでもいくつかの学校には入試データが掲載されています。
実際のところ、全合格者における社会人入試での合格者の占める割合は、まちまちです。募集人数が若干名や3名などとなっている学校は数%ですし、多いところでは三~四割になります。たとえば、社会人入試の募集人数を定員の20~30%に設定している東京都立看護専門学校の割合は、軒並み高いですね。(都立の中でも現役組が多いと言われている板橋看護専門学校でも、2019年度の入学者の4分の1は25歳以上です。)都心では、新宿メディカルセンター附属看護専門学校も、社会人の入学者の割合が高いことで知られています。
次に、一般入試を含めた入学者の年齢分布を調べてみましょう。一般入試は、建前上は誰でも受験できるオープン参加なので、社会人の方も当然受験できます。学校のホームページに入試データが掲載されている場合は、年齢分布のデータも掲載されていないか調べてみましょう(公開されることの少ないデータなので、学校に直接問い合わせた方が早いかもしれません)。サンプルとして、東京都立板橋看護専門学校を見てみましょう。
年齢区分 | 男性 | 女性 | 合計 |
---|---|---|---|
20歳未満 | 0 | 56 | 56 |
20歳以上24歳 | 0 | 3 | 3 |
25歳以上29歳 | 2 | 11 | 13 |
30歳以上34歳 | 0 | 3 | 3 |
35歳以上39歳 | 1 | 4 | 5 |
40歳以上 | 0 | 0 | 0 |
計 | 3 | 77 | 80 |
・20歳未満(高校生+一浪)は入学者の7割を占めている。
・都立看護専門学校で「社会人」とされる資格は25歳以上であり、これに該当する者は21人全体の4分の1を占めている。
・30代の合格者は8人で全体の1割を占めている。
・30代後半の合格者もいる。
現役組が中心ですが、かなり25歳以上の社会人の合格者がいることがわかります。板橋看護専門学校は、他の都立看護専門学校より現役中心と言われています。他校では社会人入学者の割合はさらに増え、年齢の幅も大きくなります。40代後半での合格者も毎年数名います。東京都立看護専門学校では、年齢制限はほとんどないと考えてよいでしょう。
ここでもう一つ考えておきたいのが教育水準です。東京都立板橋看護専門学校の看護師国家試験の合格率は次のようになっています。
受験年度 | 26年度 | 27年度 | 28年度 | 29年度 | 30年度 |
---|---|---|---|---|---|
都立板橋 | 100% | 98.7% | 94.8% | 100% | 98.7% |
全国平均 | 95.5% | 89.4% | 88.5% | 91.0% | 89.3% |
全国的に見ても十分な実績と言えるでしょう。学校の教育水準は、国内でもトップレベルにあります。都立板橋看護専門学校を含めた東京都立看護専門学校7校には似たような傾向がありますから、社会人ならぜひ受験に挑戦したい学校の一つです。
不安に感じたら問い合わせる
それでも不安に感じたら学校に問い合わせてみましょう。いくつかの方法が考えられます。
・学校説明会に参加して社会人入試や年齢について質問する。学校説明会のときに話をした先生が、入試の時の面接担当官だった、という話はよくあります。学校説明会は、疑問点を解消する場であるとともに、自己アピールの場だとも考えてください。
・電話やメール、手紙などで学校に問い合わせる。ホームページに「お問い合わせ」のページを設置している学校も多いので、それを使ってもよいでしょう。ちなみに、京都大学医学部に55歳で入学し、63歳で医師国家試験に合格、80歳すぎまで医師として活躍した故・葛城四郎氏も大学に受験してよいかと手紙で問い合わせたそうですよ。
機会があったら、「自分はこれだけやる気があるんだ」と自己アピールをすることです。もちろん学科試験の勉強もきちんとやって、入試でしっかり点数をとる。年齢が高いから無理とあきらめるのではなく、年齢が高くてもこれだけやれるんだと示し、自分の存在を相手に覚えてもらうように努力することが大切です。ちなみに、国家試験なら医師も看護師も60歳代で合格した先例はあります。本当にチャレンジしたいという気持ちがあれば、年齢はあまり気にしなくてもよいと言えるでしょう。